薬物相互作用 (27―がん化学療法における制吐剤の 薬物 ..
中等度催吐性リスク抗がん薬に対する予防的制吐療法は,5-HT3 受容体拮抗薬,デキサメタゾンの2 剤併用療法である。一方,中等度催吐性リスク抗がん薬のうち,カルボプラチン(AUC≧4)を含む治療レジメンにおいては,NK1 受容体拮抗薬の追加投与が有意に制吐効果を高めることが複数のランダム化比較試験やシステマティックレビュー・メタアナリシスで示されており,NK1 受容体拮抗薬を含む3 剤併用療法が標準制吐療法である(→, 参照)。AUC<4 のカルボプラチンやカルボプラチン以外の中等度催吐性リスク抗がん薬に対するNK1 受容体拮抗薬の追加投与の有用性は確立していないため,抗がん薬の種類,多剤併用療法における抗がん薬の組み合わせ,患者背景や症状によってNK1 受容体拮抗薬追加の適否を検討する。
投与していない別の作用機序をもつ制吐薬(ハロペリドール,メトクロプラミド
薬剤の催吐性リスク分類は単剤での評価が基本であるが,同一薬剤であっても投与量,投与法によって異なり,さらに近年ではいずれの悪性腫瘍においても多剤併用療法が主流となっているため,催吐性リスクが過小評価とならないよう細心の注意を払うべきである。この点に関して,アントラサイクリンとシクロホスファミドの併用療法について,それぞれ単剤(シクロホスファミド≦1,500 mg/m2)では中等度リスクに分類されるが,NCCN ガイドライン2017 では高度リスク群として明記され,MASCC/ESMO ガイドライン2016 およびASCO ガイドライン2017 においても嘔吐頻度が高いことが示されている〔→参照〕。さらに,抗がん薬を複数日にわたって施行するレジメンの場合,薬剤の投与順序に応じて急性嘔吐と遅発性嘔吐が重複する場合もあり,より綿密な治療計画が望まれる。その一例としてリンパ腫におけるESHAP 療法では,1 日目から4 日目は中等度リスクとして対処し,高用量シタラビンが投与される5 日目以降は高度リスクとして対処する。
軽度催吐性リスク抗がん薬に対する予防的制吐療法は,実臨床ではデキサメタゾン,5-HT3 受容体拮抗薬,ドパミン(D2)受容体拮抗薬が単剤で投与されていることが多いが,予防的投与として推奨できる明確な根拠がないため(→ 参照),今後の検証課題として を設定した。最小度催吐性リスク抗がん薬に対しては,ルーチンとしての予防的制吐療法は行わない(→ 参照)。
デキサメタゾン(DEX)の3剤併用標準制吐療法を施行することが推奨 ..
なおホスアプレピタントの海外第III相ランダム化比較試験として,中等度リスクの制吐薬治療における5-HT3 受容体拮抗薬とデキサメタゾン併用に対するホスアプレピタントの上乗せ効果が報告されている。
高度催吐性リスク抗がん薬に対しては,5-HT3 受容体拮抗薬,NK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾンの3 剤併用療法が推奨されてきた。一方で,制吐効果を有する多元受容体標的化抗精神病薬(MARTA:multi-acting receptor targeted antipsychotics)であるオランザピンの,抗がん薬による悪心・嘔吐に対する有用性が国内外で検証され,前版一部改訂版(ver. 2.2)において,高度催吐性リスク抗がん薬に対する制吐療法としてオランザピンの使用が追記された。また,NCCN ガイドライン2017,ASCO ガイドライン2017 では,高度催吐性リスク抗がん薬に対して,5-HT3 受容体拮抗薬,NK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾンに加え,オランザピンを併用する4 剤併用療法が標準制吐療法として記載された(→ 参照)。
*8: デキサメタゾンの血中濃度はアプレピタントCP併用時に相互作用で2倍に上昇 ..
オランザピンを用いない3 剤併用療法を行う場合やデキサメタゾンの投与期間を短縮する場合の5-HT3 受容体拮抗薬の選択は,遅発期悪心・嘔吐に対して第1 世代よりも有効性の高い第2 世代のパロノセトロンを優先する(→ 参照)。
オランザピンの予防的制吐効果を検証したランダム化第Ⅲ相比較試験はこれまでに複数報告されている。シスプラチンとAC 療法を含む高度催吐性リスク抗がん薬に対して,パロノセトロンとデキサメタゾン併用下においてオランザピン10 mg はアプレピタントと同等な制吐効果であることを示した試験,アプレピタントまたはホスアプレピタント,パロノセトロン,デキサメタゾンにオランザピン10 mg を併用する有用性を示した試験,シスプラチンを含む治療レジメンに対して,アプレピタント,パロノセトロン,デキサメタゾンにオランザピン5 mgを併用する有用性を示した試験がある。
デキサメタゾン(オルガドロン注®、デカドロン錠®) 機序は不明です。 ☆オランザピン(ジプレキサ錠®)
基本的に5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン6.6~9.9 mg を静注(8~12 mg を経口)の2 剤併用とするが,一部の抗がん薬(カルボプラチン,イホスファミド,イリノテカン,メトトレキサート等)を投与する場合にはアプレピタント125 mg 経口投与もしくはホスアプレピタント150 mg 静脈内投与の併用が推奨され,その際にはデキサメタゾンを減量(静注: 3.3~4.95 mg,経口: 4~6 mg)する(→参照)。また,わが国では400 例を超えるオキサリプラチン投与患者に対する第III相ランダム化比較試験が行われ,5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン併用下において,アプレピタント/ホスアプレピタント群がコントロール群より全治療期間,特に遅発期の悪心・嘔吐の制御に優れることが示された。
オランザピンは,公知申請により2017 年6 月から,「他の制吐薬との併用において成人では5 mgを1 日1 回経口投与(患者の状態により最大1 日10 mg まで増量可能),最大6 日間の投与を目安」として,先発品と一部の後発品で本邦においてのみ保険適用となった。注意点として,オランザピンは本邦では糖尿病患者に対して投与禁忌(海外では慎重投与)である。肥満等の糖尿病リスク因子を有する患者や75歳以上の高齢者に対する投与の安全性は確立されておらず,使用する際には有害事象である血糖上昇や傾眠に十分注意する(→ 参照)。
医療用医薬品 : デキサート (デキサート注射液1.65mg 他)
NCCN ガイドライン 2015 では,アプレピタントの代わりに多受容体作用抗精神病薬(MARTA)であるオランザピンをパロノセトロンとデキサメタゾンと3 剤併用で用いるオプションが示された。さらに同2017では,新たにアプレピタント(またはホスアプレピタント),パロノセトロン,デキサメタゾンの3剤併用にオランザピンを加えるレジメンも提示された。これらは,シスプラチンとAC療法を含む高度リスク抗がん薬投与に際し,オランザピンが,パロノセトロンとデキサメタゾン併用下においてアプレピタントと同等であることが示された第Ⅲ相ランダム化比較試験や,アプレピタント(またはホスアプレピタント),パロノセトロン,デキサメタゾンの3剤併用にオランザピンを加える有用性が示された第III相ランダム化比較試験の結果を受けている。ASCO ガイドライン2017 でもオランザピンを加えた4剤併用が推奨療法として追加された。オランザピンはわが国でも複数の臨床試験が行われた。オランザピンは公知申請により2017 年6 月から,他の制吐薬との併用において成人では5㎎ を1 日1 回経口投与(患者状態により最大1日10㎎ まで増量可能),最大6 日間を目安として先発品と一部の後発品で保険下にて使用が可能となった。本邦における推奨用量,使用方法については未だ検証段階であるため,適切な患者に慎重に投与することが望まれる。慎重投与すべき患者としては,糖尿病患者ならびに高血糖あるいは肥満等の糖尿病の危険因子を有する患者であり,使用に際しては副作用の傾眠や血糖上昇に十分注意する。高齢者への投与も慎重に行うべきである。作用点が重複するドパミンD2 受容体拮抗薬ドンペリドン,メトクロプラミド,ハロペリドール,リスペリドンなどとの併用は勧められず,また,睡眠薬との併用には注意を要する。投与量に関してはランダム化第Ⅱ 相試験ではあるが,高度リスク抗がん薬投与に対し3剤併用に加えたオランザピン5 ㎎ と10 ㎎では遅発期の悪心・嘔吐の制御において同等であったとの報告もある。
の透過性の減少,脳幹におけるエンケファリンの放出抑制,中枢性プロスタグラン
近年,高度催吐性リスク抗がん薬に対しては,5-HT3 受容体拮抗薬,NK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾンに加え,オランザピンを併用する4 剤併用療法(→ 参照)が普及しつつあり,5-HT3 受容体拮抗薬の選択の重要性は以前より低下している。また,後発品の登場により両者の薬価差が小さくなったため,高度催吐性リスク抗がん薬に対する5-HT3 受容体拮抗薬はパロノセトロンを用いることが一般的になっている。
吐き気のリスクに応じて、NK-1受容体拮抗薬(アプレピタント)や多元受容体作用抗精神病薬(オランザピン)なども併用されます。
パロノセトロンの予防的制吐効果を検証したランダム化比較試験はこれまでに複数あり,メタアナリシスも行われている,。メタアナリシスでは,高度催吐性リスク抗がん薬における急性期および遅発期の制吐効果について,第1 世代5-HT3 受容体拮抗薬に対するパロノセトロンの優越性が示されているが,その差は必ずしも大きくはなく,併用する制吐薬によっても異なる。
またはドンペリドン,抗コリン薬,ヒスタミン H1受容体拮抗薬のいずれか)を追加
NK1受容体拮抗薬であるアプレピタント125 mg 経口投与もしくはホスアプレピタント150 mg 静脈内投与と5-HT3受容体拮抗薬およびデキサメタゾン9.9 mg 静注(12 mg 経口)の3 剤併用が推奨される。第1 世代の5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンの2 剤併用に比べ,アプレピタントを加えた3 剤を併用することで制吐作用の著しい改善が示されている~。第1 世代の5-HT3受容体拮抗薬(→ 参照)は,単剤間の直接比較およびデキサメタゾン併用下での比較において,薬剤間またその投与経路によって効果に大きな差はなく,用量や投与回数の影響を受けないことから,抗がん薬投与開始前に必要量を単回投与とする。第2 世代5-HT3受容体拮抗薬のパロノセトロンは,単剤間の直接比較およびデキサメタゾン併用下での比較において,急性嘔吐の予防効果は他薬剤と同等であるが,遅発性嘔吐の予防において優れている(→ 参照)。デキサメタゾンの用量(→ 参照)については,第1 世代の5-HT3受容体拮抗薬との2 剤併用では13.2~16.5 mg を静注(16~20 mg を経口)とされてきたが,アプレピタントとの併用では,アプレピタントがCYP3A4 を阻害することによりデキサメタゾンの濃度-時間曲線下面積(area under the concentration-time curve; AUC)が増加するため,3 剤併用では9.9 mg 静注(12 mg 経口)に減量する。ただし,副腎皮質ステロイドが抗がん薬として投与されるCHOP 療法などではレジメン内のステロイドは減量してはならない。アプレピタントの投与期間は3 日間が推奨される。ホスアプレピタントはアプレピタントの水溶性を向上させたリン酸化プロドラッグであり,静脈内投与後に体内の脱リン酸化酵素によって速やかに活性本体であるアプレピタントに変換される。ホスアプレピタントはオンダンセトロン,デキサメタゾンとの3 剤併用でアプレピタントとの同等性が示されており,5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン併用下での抗がん薬投与30 分前,150 mg の単回使用が推奨される。ただし,副作用として注射部位痛/発赤/血栓性静脈炎の頻度が高いことに留意すべきである。
必要がある。 ➢ NCCNガイドライン2023 ver.2では、制吐療法の選択は抗がん薬の催吐
5-HT3 受容体拮抗薬とデキサメタゾンの2 剤併用療法において,パロノセトロンと第1 世代の5-HT3 受容体拮抗薬を比較したランダム化比較試験では,パロノセトロンは急性期のCR 割合については非劣性を,遅発期のCR 割合については優越性を示した。また,シスプラチンを含む高度催吐性リスク抗がん薬を対象に,NK1 受容体拮抗薬を含む3 剤併用療法下にグラニセトロンとパロノセトロンを比較したランダム化比較試験では,主要評価項目である全期間のCR 割合に有意差はなかったが,副次的評価項目である遅発期のCR 割合はパロノセトロンが有意に良好であった。
5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾンの2剤を併用するイリノテカンなど特定の ..
今版における改訂のポイントは,国内外のランダム化第Ⅱ・Ⅲ相比較試験により,高度および中等度催吐性リスク抗がん薬に対して,オランザピンを含む予防的制吐療法が開発されたこと(→,, 参照),遅発期のデキサメタゾン投与省略のエビデンスが示されたこと(→, 参照),中等度催吐性リスク抗がん薬に対するNK1 受容体拮抗薬の予防的投与について新しいエビデンスが示されたこと(→ 参照),である。
・この薬は、炎症やアレルギー症状の改善、免疫の抑制、抗悪性腫瘍剤で起こる
遅発性嘔吐は,抗がん薬投与後24 時間以降に発現するもの,と定義されており,そのコントロールは,患者のQOL 維持,さらに精神的安定や治療に対する意欲の向上のためにも必要不可欠である。薬剤の催吐性リスクを適正に評価し,エビデンスに基づいた制吐薬の適切な使用を検討する必要がある。
〇溶血性貧血(免疫性又は免疫性機序の疑われるもの)、白血病(急性白血病、.
予防的制吐療法に用いられる制吐薬は,急性期に有効な5-HT3 受容体拮抗薬,NK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾン,遅発期に有効なNK1 受容体拮抗薬,デキサメタゾンである。また,かつて制吐目的に適応外使用されていた非定型抗精神病薬のオランザピンが,公知申請を経て,2017 年に本邦でのみ,「抗悪性腫瘍剤(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心,嘔吐)」に対して保険適用になり,急性期・遅発期ともに有効な新たな制吐薬として使用可能になった。抗がん薬の催吐性リスクに応じて,これら制吐薬の組み合わせ,投与期間,投与量が決められている(→参照)。
デキサメタゾン+ハロペリドールorドラセトロン,デキサメタゾン+オンダンセトロン+ドロペリドール, ..
ASCO ガイドライン2017 によれば,遅発性嘔吐は,程度としては軽度なものが多いが,急性嘔吐の対処が不十分なときに起こりやすいとされる。治療としては副腎皮質ステロイド(経口デキサメタゾン)が推奨されており,メトクロプラミドや5-HT3受容体拮抗薬とも併用される。しかし,デキサメタゾンに加え5-HT3受容体拮抗薬を併用しても制吐効果の増強は得られない。さらに,急性嘔吐を認めた場合にはこれら2 剤を併用しても効果は不十分であるとされているため,抗がん薬の催吐性リスクや患者の状態に応じていずれか一方の使用にとどめるべきと思われる。